あなたは頭が良すぎるから医療少年院

 

私は暴行致傷、窃盗、監禁の罪で19歳のときに逮捕された。

 

所謂、オヤジ狩りというやつだ。

 

事件を起こしたのは18歳のときだったが、住所不定でフラフラしていたため「居場所を特定するのに時間を要した」と刑事は言っていた。

 

事件の内容からして警察は当初、男子の犯行だと思ったらしい。

 

私の名前は男女にあり得る名前のため、警察は家宅捜索に来た際「こんなに華奢な女の子だったのか」と驚いていた。

 

私は昔から内向的で、親に何を聞かれても「大丈夫」と答えていた。

 

友人を積極的に作るタイプでもなく、中学1年生の頃は暗いからという理由でいじめを受けていたほどだ。

 

しかし、人間いつまでも我慢はできない。

 

怒りたくなることもあれば、泣きたくなることもある。

 

親にすらひた隠しにしてきた感情は思春期を迎え、反抗期に突入すると、隠しきれないものへと変わっていった。

 

私が非行に走るきっかけになった理由のひとつに、両親の離婚がある。

 

それだけではなかったものの、大きな理由であったことには違いない。

 

母に引き取られた私と妹は、それまでのセレブ生活から絵に描いたような貧乏に変わった。

 

そのギャップに小学生がついていけるわけもなく、中学2年生で大爆発したという感じだ。

 

反抗期は高校生になっても続き、少年院から出てようやく社会人として真っ当に生きる気になった。

 

母との確執は10年に及び、仲良く笑い合えるようになったのはここ最近の話である。

 


早く出るために嘘をついたのが、病気だと思われた

 

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私は逮捕された当時、警察がなにを言っているのか本気で分からなかった。

 

暴力沙汰を起こすことは頻繁にあり、共犯者の友人と車中泊をして暮らしていたため、なんの話だかを思い出すことすらできなかった。

 

更に、私を担当した刑事との相性が最悪だったのだ。

 

通常少年事件には少年課の刑事が対応するが、私の起こした事件は内容が悲惨であったため、暴力事案を扱う課から移ってきたばかりの刑事が担当したのである。

 

少年事件を対応する刑事と、成人を対応する刑事には大きな違いがある。

 

少年担当の刑事が親だとしたら、成人担当の刑事は昭和の教師

 

成人を対応する刑事は、とにかく高圧的な刑事が多い。

 

見くびられたら困る、威圧的でないと制せない犯罪者もいる、そのような理由から強気に出てくる刑事が多い。例えるなら、愛がない昭和の教師だ。

 

しかし、少年事件の刑事の対応は親に近い。

 

容疑者を「あなた」や「お前」と呼ばずに、名前や苗字で呼ぶことにより心の距離を縮める。

 

そうすることで子どもは心を開き、事件の全容をペラペラと話すからだ。

 

残念なことに私を担当した刑事は高圧的で、常に上からだった。

 

相手をしてやってる、というくらい頭の回転に差があることはすぐに分かった。

 

最終的に刑事をイライラさせることが楽しくなり、調書にサインを拒否した途端、激昂した刑事を忘れることはできない。

 

もちろん罪を犯す人間が悪いのは当然であって、見下されて当然といえば当然であろう。

 

しかし、事件の全容を解明したいのであれば、彼が大きな間違いを犯していることには気付いていないようだった。

 

留置場で取り調べを受けている時間は、私にとって刑事をからかうだけの時間に過ぎなかった。

 

なにを言われてもなにを出されても事件を思い出せず、私はヘンテコな回答をして笑っているだけであった。

 

私がやったという証拠は十分にあったものの、私は頑なに犯していないと罪を認めなかった。

 

そうして記憶喪失=病気という判断が下され、医療少年院に送致された。

 

弁護士の話では、刑事事件として差し戻される可能性があり、そうなると刑務所行きは避けられないとのことだった。

 

ところが弁護士の予想とは異なり、医療少年院に1年間の送致が決まったのである。

 

19歳と6ヶ月、雲ひとつない晴れた夏の日だった。

 


医療少年院は楽だと知って、出院まで居座る方法を考えた

 


医療少年院送致が決まってから、少年院にも種類があり、医療は「楽勝」であることを知った。

 


そうと分かれば出院までの時間を医療少年院で過ごすために、なにができるかと考えた。

 

(通常完治した少年は初等、中等少年院に装置される。医療に送致されたからといって、出院まで医療で過ごす少年ばかりではない。)

 

医療少年院では入院してすぐに精密検査を受ける。

 

どこのなにが病気かを調べるためであるが、私はどこにも異常がなかった。

 

そして最後に脳波を測ったのだが、ここで思い付いたのである。

 

「殺したいという感情だけで頭をいっぱいにしたとき、脳波計に変化は起こるだろうか。」

 

頭に器具をたくさん付けて横になり「ゆっくりして」と言われたが、私は頭の中を殺したいという感情でいっぱいにした。

 

特定の誰かではなく、殺意だけで自分を満たした。

 

すると数分後、医師が「おっ」と声をあげたのである。

 

それが要因のひとつにもなり、私は出院までを楽勝といわれる医療少年院で過ごした。

犯罪者のくせに!という感じだが、当時の私に一切記憶はなかった。

 

ただ判決が下った以上、刑事事件として差し戻されるリスクを負ってでも無罪を訴えるのは、あまり賢明とはいえない気がした。

 

とにかく早く出るための道を模索した結果、私を主犯だと指差した友人は中等少年院に2年の刑期、私は医療少年院に1年の刑期となったのである。

 


あなたは頭が良すぎるから、賢さを正しく使う方法を学ぶのよといわれた

 

 

刑務所も同様であるが、送致されて一週間ほどは単独で過ごす。

 

食事やプログラムも個別に組まれ、環境に適応できるよう準備期間があるのだ。

 

医療少年院に送致される少年のほとんどは、この準備期間に一度は問題を起こす。

 

現実に反抗してのことだが、私は優等生のように大人しくしていた。

 

とにかく早く出るため、そんなことをしている暇はなかったのだ。

 

しかし、奇声をあげたり自称行為をする少年が多い中、大人しい私を刑務官たちは不思議そうに見ていた。

 

少年院生活にも慣れ始めた頃、刑務官は私にこういった。

 

「あなたみたいな子は初めてだけど、頭が良すぎるからここへ来たんだと思うわ。賢さは正しく使うから意味があるんであって、あなたはその方法を学ぶのよ。」

 

計算して医療少年院に入ったといえば聞こえはいいが、その考え方自体が犯罪者である。

 

しかし、この賢さは視点を変えれば、社会で生きるのに役立つというのだ。

 

少年院で賢く使う方法を学べたかは定かでないものの、得られた経験がかけがいのない宝物であることは確かだろう。

 


犯罪者のIQを調べていると面白い発見がある

 


少年院に入って思ったことのひとつに、IQがある。

 

勉強ができるできないではなく、頭の回転の速さだ。

 

罪を犯す多くの人間は、回転が遅い。

 

だから捕まるともいえるが、回転が速すぎるあまりに捕まる人間もいると知った。

 

賢い人は頭の回転が速い。

 

1から10のものを吸収するため、快楽も苦痛も回転が遅い人よりも必然的に多くなる。

 

となると、好奇心を刺激され「もっともっと」となるのは人間のサガといえるだろう。

 

この世には、救いようのないバカもいる。

 

学歴に関係なく、頭の回転が遅い人たちだ。

 

特に勉強ができるバカほど厄介な存在はおらず、都合よく事実を捻じ曲げていく様は、政治家によく見る光景だ。

 

そういった子たちが、少年院に送致されることも多い。

 

声高々自慢げに、さも俺が事件を起こした!ように語っていても、よく聞けば利用されているだけのことも多かった。

 

最近流行りの詐欺の受け取り役なんかは、明らかに回転が遅いバカの代表だろう。

 

彼らは犯罪などせず平凡でありきたりな毎日を過ごせばいいものの、ほとんどが目立ちたがりや寂しがりが原因で、要らぬ苦労を背負っている。

 

しかし、回転が速すぎるあまりに犯罪者になる人もいる。

 

そういった彼らの使い道を考察すると、意外と国の役に立ったりもするのだ。

 

最近はハッキングで逮捕される少年も多いが、更生させる必要はないと個人的には思う。彼らの持つ才能を、国が変えてあげればいいだけなのだ。

 

まさに、物は使いよう、その一言に尽きる。

 

それが例え犯罪者であっても、マイナスをプラスに変えることはいくらでもできるのだから。

 

私の賢さが世間の役に立っているかは不明だが、こうして誰かへ向けて経験を伝えられるだけ幸せだろう。

 

と思えるようになったのも、医療少年院のおかげというのが泣くに泣けないが。